見出し画像

【3行要約あり】Agile Japan 2024 セッションまとめ【生成AI/人間の情熱】


【時間の無い人向け】Agile Japan 2024 を 3行で要約!


  • 生成AI時代、人間の重要な役割は 「意思決定」「リーダーシップ」

  • それらを実現するのはAIには無い 人間の「情熱 (Passion)」

  • 報酬ではなく 「内発的動機付け (関心や向上心)」 が情熱を生み出す!

はじめに


こんにちは。SHIFT Group 技術ブログをご覧いただきありがとうございます。

株式会社SHIFTの平田元春(ひらたもとはる)です。

スクラムマスターやQAリード(品質保証のリードエンジニア)を担当しながら顧客のアジャイル導入を推進しています。

今回、2日間に渡って開催された「Agile Japan 2024」のセッション聴講を行ったので、広く学びをシェアできればと思い本記事を書きました。

※弊社のブース紹介や登壇内容はこちらの別記事で紹介しています。ぜひご覧ください!

※記事を気に入っていただけた方はぜひ「スキ」ボタンを押してください!平田のやる気が出ます!

Agile Japan とは


Agile Japanは、日本中にアジャイルの価値を浸透させ、日本の変革を促進することを目指して毎年11月に開催されているカンファレンスです。

あらゆる業界や職種の方が集まり、「アジャイルを実践しており悩みがある」「事例を知りたい」「これからアジャイルをやってみたい」という方々が集まり、建設的な意見交換ができる場を提供しています。

カンファレンスのほかに初学者向けのセミナーも開催されています。

Agile Japan 2024 開催概要


  • テーマ:People-Centric Agile

  • 期間:2024年11月21日(木)~22日(金)

  • 会場:ベルサール新宿セントラルパーク (会場・オンラインのハイブリッド開催)

各セッションでの学び


今年のAgile Japanはアジャイルの「技術」よりもむしろ 「意識」や「心構え」「行動」 にフォーカスしたセッションが多く、人間の「ソフトスキル(個人の特性や行動)」の重要性を強く認識させられる2日間となりました。

本記事では関連するいくつかのセッションをピックアップします。

※当日のタイムテーブルや投影スライドはこちら (Day1/ Day2)

Day1


基調講演:生成AI時代における人間の情熱とプロダクト志向 (Tably 代表取締役 及川 卓也 さん)

(出典:及川卓也_AgileJapan2004_生成AI時代における人間の情熱とプロダクト志向

・生成AIだけではできない人間の役割。それは「トレードオフに基づくプロダクトの意思決定」である
・それを実現するのに必要なのは人間にしかない「情熱(Passion)」であり、いま日本に必要なもの
・例えばプロダクトオーナーは情熱が必要な「エヴァンジェリスト」であり、「新興宗教の教祖」「よい詐欺師」を目指すべき
・「情熱」とは「本質に向き合うこと」であり、内発的動機付け(報酬ではなく関心や向上心など)が重要
・情熱駆動開発のデメリットは「暴走の可能性」。冷静と情熱の間を維持するためにAIを活用しよう

以前から私自身も「良いプロダクトを作るには情熱が必要不可欠」という考えを持っていましたが、まさにそれを裏付けて頂いたような講演でした。

手の内化」という言葉が印象的で、開発を生成AIや外部委託へ丸投げするのではなく、自分達で意思決定をできる状態にしておくべきという考えを指します。

生成AIが主流になることでプロダクト開発における人間の果たす役割がより明確に「意思決定」と定まってきており、「手の内化」を維持しつつ最適な判断をしていく能力、つまり情熱が求められていることを痛感させられました。

不確実性を乗り越える!ネットバンキング開発の挑戦 (北國銀行 チーフ 奥村 惇平さん)

(発表資料未公開のためキースライドなしです。ご了承ください)

・法人向けインターネットバンキングの開発。139名19チームのLeSS
・誰が決めたか分からないサービスイン目標(納期)が存在し到底間に合わない状況
・残りの作業規模を見積もり全チームで認識合わせを行った結果、サービスイン目標の再設定を実現
また、「リリース目標設定に関するグラウンドルール」を作成し「コミットメントできること/できないこと」「やってはいけないこと」を明文化
・「最大限の努力を約束するがスケジュールは確約できないこと」や「目標を約束とみなして圧をかけてはいけないこと」をスクラム内外に周知

鶴の一声で決まったリリース日程を納期として開発が進むことは日本のスクラム開発ではよくあることだと思います。

また、往々にしてその日程は無茶なもので、残課題を積み上げながら無理矢理に間に合わせるということも良くあるかと思います。

ですが、このプロジェクトでは開発側の主導で日程を再設定したり、スクラム内外でコミットメントに対する正しい意識づけを行っていったりすることで「無理のないスクラム」を実現していて、とても参考になります。

また、『お客様がログイン画面を見て思わず出た「みやすっ(見やすい)」という言葉が最高に嬉しかった』という言葉は彼らが機能ではなく価値を届けるためにスクラムを実施していることがわかる好例です。素晴らしいプロジェクトですね。

人間中心のマネジメントへの変革:スクラムが拓く組織の未来 (Scrum Inc. Agile Transformation Consultant / Coach 山本 尊人さん)

(出典:山本尊人_AgileJapan2004_人間中心のマネジメントへの変革:スクラムが拓く組織の未来

・スクラムAIチームという世界初の試みが既に行われている (2人の人間と6つのAIでチームを構成)
・まだ人間が多くをサポートする必要がある状態だが、近い将来一般的になる
・チームにAIを入れていき、どんどん「小さなチーム」になるので人間は「自立した個」というソフトスキルが大事
・POは人がやる。AIのサポートを受けながら人間(PO)は利用者の価値にフォーカスする
・全体設計などの意思決定を開発者が行う
AIと働く時代の人の働き方は「自立した個」と「サーバントリーダー」が担う

基調講演の主旨と同じく、「AI時代の人間の役割は価値を生むための意思決定である」という話が再度展開されました。

「スクラムチームの中にAIを取り込んでいく」というのはコーディングにCopilotを使ったり調べものにChatGPTを使用するという「利用」ではなく、AIにスクラムマスターといった「役割自体をアサイン」するという話であることに注目です。

AIを取り込んだスクラムチームにおいて、人間は指示を受けて行動するのではなく、自ら考え行動する能力が必要になっていくという話にとても共感しました。

Day2


KEYNOTE: 正解のない時代のアジャイル開発 ~今こそ見直されるエンジニアの役割~ (フルストリームソリューションズ 代表取締役社長 和智 右桂さん)

(出典:和智右桂_AgileJapan2004_正解のない時代のアジャイル開発~今こそ見直されるエンジニアの役割~

・人間のソフトスキルが重要。創造性/コーチング/チームビルディング/影響力/コミュニケーション
・人間がすべきは意思決定。正解のない複雑な問題にイテレーティブに対処し最適解を目指す技術がスクラム
・結論:現代のアジャイル開発におけるエンジニアの役割は決められたものをつくるだけでなく、組織的な意思決定に積極的に関わること
・メンタルモデル(価値観)
を育てて自然と意思決定できるようにする
・メンタルモデルを育てるには日々アウトプットの経験を増やすしかない。
・批判を恐れず「事実+α(自分を主語にした考え)」を書く。まずは本/映画/絵画の評論から。

2日目も「エンジニアの役割は意思決定」という結論から始まりました。Agile Japan 2024の格言ですね。

また、こちらのセッションでは「どうすれば意思決定が積極的にできるようになるか」について詳しく言及されていました。

意思決定のスキルを向上するには「メンタルモデル(価値観)を育てること」が重要で、これは自分を主語にした意見をアウトプットしていく日々の活動で磨かれるという考えです。

日頃自分の意見をあまりアウトプットしないメンバーが急に意思決定に関わることは難しいと思います。レトロスペクティブなどでアウトプットをする場を用意し少しづつ経験を積んでもらうように心がけることが最初の一歩なのかと考えています。

組織にアジャイルな「芯」をつくろう(レッドジャーニー 代表 市谷 聡啓さん)

(出典:市谷聡啓_AgileJapan2004_組織にアジャイルな「芯」をつくろう

・価値創出にどれだけ振っても組織構造が既存のままでは突破し得ない
階層型からネットワーク型へ組織構造を変革するべきだが、まずはハイブリッドを目指せと四半世紀前から言われている
制御のハンドルを自分たち自身で握れ。それは「権限」と「責任」の両方を持つということ
・辿り着くのは「中間的生成的な場」をつくること。階層型ではないが現場を支援する体制がある場
・具体例はPdMO(プロダクトマネジメントオフィス)。自己組織化を目指すチームへ支援の選択肢を提示し、チームは支援を要求する
・これこそが「芯」であり、実現するのに最も重要なのは自ら行動する人の「意思」

アジャイルはトップダウン(言われて始める)よりボトムアップ(自分たちの意思で始める)が望ましいのは周知のとおりですが、ボトムアップで始まったアジャイルが「権限」や「責任」を持っておらず自己組織化が進まない例を多く目にします。

そういった「制御のハンドルを自分たち自身で握ろうとするが権限や責任が得られず頓挫する」パターンは組織構造が階層型のままで「現場を支援する体制がある場」が無いことも原因の一つなのだなと気づかされました。

また、PdMOのような支援の場が用意されてはいるものの、そこが権限や責任を持っておりアジャイルを目指すチームが身動きを取れなくなるという悪いパターンの組織も存在します。

このセッションを通して、顧客に最も近い所で自ら考え行動する人達(=アジャイルなチーム)が権限や責任を持つように組織を構成することが極めて重要であると再認識させられました。

People-Centric リーダーシップとは?(ロッシェル・カップさん)

(出典:ロッシェル・カップ_AgileJapan2004_People-Centric_リーダーシップとは?

幸せなチームを作るのに重要なのはリーダーシップ。肩書が無くてもリーダーになれるリーダーシップとは、自分がそうするべきだと確信していることを、ほかの人がそうしたいと思うように仕向ける一種の技のようなもの

リーダーシップの4つの極意:
やりたくなる(≠強いる) / 「わざ」である(≠科学)/ 他人を巻き込む(≠自分でやる) / 心から確信している(≠騙す)

クーセズとポズナーの模範的リーダーシップの5つの行い:
模範となる/共有されるビジョンを鼓舞する/プロセスに挑戦する/人々を行動にかりたてる/心から励ます

アジャイルではしばしば「幸福度」という言葉が使われます。

実際のところ、アジャイルは「人々が幸福にプロジェクトを進めていくこと」が目的の1つと言っても過言ではありません。

その目的を達成するために重要なのはリーダーシップであり、肩書とは無関係に各自リーダーシップを発揮していけるようになるべきといった内容でした。

ここにもやはり「情熱」という言葉が見え隠れします。

人々を挑戦へと導き、巻き込んでいく「わざ」がリーダーシップであり、情熱なくして成し得ないことに改めて気づかされました。

おわりに


「バックログの管理方法」や「ベロシティの改善方法」など、アジャイルの「新たなベストプラクティスの共有」は下火になりつつあります。

恐らくそれらは出尽くしつつあり、Webで調べれば誰でも手に入れられるようになってきています。

現代のアジャイルでは、次のフェーズとして 「意識」や「心構え」「行動」の重要性にフォーカスが当たっており、Agile Japan 2024もそれを反映したセッションが顕著でした。

これからの時代は「アジャイルを志向する人々自体が変革する」ことが求められており、それは従来のベストプラクティスを実施するよりも遥かに高い壁のように感じます。

その壁を超えるべく情熱を持って取り組む人々が幸福なチームを作り上げ、求めるプロダクトを手にしていくことができるのだろうと私は考えています。


執筆者プロフィール:平田元春
10年以上の開発経験、5年以上のアジャイル経験を活かしてアジャイルを推進する人。
チームの文化やメンバーの価値観の違いを尊重したアジャイルの適用を信条としている。
趣味は海外旅行や海外スポーツ観戦など。旅行の計画(プランニング)が大好き

SHIFTへのお問合せはお気軽に

SHIFTについて(コーポレートサイト)

SHIFTのサービスについて(サービスサイト)

SHIFTの導入事例

お役立ち資料はこちら

SHIFTの採用情報はこちら

PHOTO:UnsplashJess Bailey