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【JaSST’24 Niigata 登壇レポート】 アクセシビリティはじめの一歩/まず押さえたい2つのキーワード(後編)


はじめに


こんにちは。株式会社SHIFT カスタマーエクスペリエンスグループで、UXやアクセシビリティを担当している長谷川です。前編では「障害者差別解消法」についてのお悩みについてでしたが、後編では「国際規格は難しそう…」というお悩みについて、分かりやすく説明したいと思います。

アクセシビリティ検査の国際規格(WCAG)


アクセシビリティの検査を実施する際には、達成基準を定めた規格が必要となりますが、その中で国際的に有名なのが、WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)。Webのアクセシビリティに関する世界的な基準にもなっているガイドラインです。

これは、W3C(World Wide Web Consortium)と呼ばれるウェブの世界的な標準化を目指す国際的な団体が作成しています。WCAG 1.0から始まり、WCAG 2.0、WCAG 2.1、WCAG 2.2と、時代やテクノロジーの発展に合わせて内容がアップデートされています。
例えば、WCAG 1.0が勧告されたのが1995年。Windows95が発売された年ですね。そしてWCAG 2.0が勧告されたのが2008年。iPhoneの第一世代が発売された年の翌年です。このように考えると、アップデートの節目を感覚的にご理解いただけるかと思います。

大きな変化は、WCAG 2.0の時。2012年、国際規格であるISO/IEC 40500:2012に承認され、各国で採用されるアクセシビリティの国際標準になりました。現在はバージョンが進み、最新は2023年に勧告されたWCAG 2.2です。しかし、勧告されたばかりで、解説や達成方法についての日本語対応が間に合っていないこともあり、まだWCAG 2.0や2.1を採用している企業が多いです。

WCAGの変遷


ここでは、WCAGがどのように変化してきたかを、バージョン毎の特徴を押さえながら簡単に見ていきたいと思います。

>WCAG 1.0(1999年勧告)※
初期の規格。14のガイドライン、65項目のチェックポイントにより構成。
HTMLやCSSによる解決を中心とした内容。各項目にチェックポイントと1~3の優先度が振られています。
※2024年8月17日 訂正:1995年勧告 ➡ 1999年勧告

>WCAG 2.0(2008年勧告)
4つの原則、61個の達成基準により構成。
急速なウェブテクノロジーの発展に伴い、将来の技術開発にも幅広く適用できるように設計されています。1つの問題に対してA、AA、AAAまで最大3つのレベルの達成基準に沿って適合性を判断します。

>WCAG 2.1(2018年勧告)
WCAG 2.0の内容に、17個の達成基準が追加。
認知または学習障がいのある利用者、ロービジョンの利用者、モバイルデバイス上における利用という大きく3つの観点からウェブアクセシビリティを実現するための内容が追加されています。達成基準は、WCAG 2.0と同じ3つのレベルです。

>WCAG 2.2(2023年勧告)
4つの原則は変わりません。達成基準は9個が追加され、1つが削除。
ドラック操作やフォーカス、ターゲットサイズなどについての項目が増えています。

>WCAG 3.0(草案)
2020年から始まったコロナ禍により、非対面のサービスが増えるとともに利用用途が拡大しテクノロジーも急速に発展しています。このような流れも踏まえながら現在草案が作られていると思われます。

WCAGと日本独自の国家規格JISの関係


日本では、WCAG、ISO/IECといった国際規格とともに、JIS(日本産業規格)が有名です。その中にある、JIS X 8341シリーズ「高齢者・障害者等配慮設計指針− 情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス−」の第3部(以下:JIS X 8341-3)は、アクセシビリティに関することです。2012年にWCAG 2.0がISO/IEC 40500:2012に承認されたことを受け、このJIS X 8341-3も同じ規格になるように改正されました。ですから、それぞれの規格を見比べていただくと、全く同じ内容であるということがお分かりになると思います。

参照元:デジタル庁「アクセシビリティ導入ガイドブック」
https://www.digital.go.jp/resources/introduction-to-web-accessibility-guidebook、図は筆者作成

WCAG 2.0、ISO/IEC 40500:2012、JIS X 8341-3:2016。これら3つの規格が統一された一番のメリットは、アクセシビリティ検査のチェック方法やチェックツールを共通化できたことです。国ごとに違う規格を使う必要がなくなった効果は非常に大きいと言えるでしょう。

ただ注意が必要なのは、関連情報のカバー範囲です。WCAG 2.0は「本文」「解説書」「達成方法集」の 3つで構成されていますが、JIS X 8341-3:2016に含まれるのは「本文」のみです。「達成基準」の詳細な解説と「達成方法」は含まれていません。ですから、JIS X 8341-3:2016に準拠していることを確認するためには、必ずWCAG 2.0の「達成基準」と「達成方法」を理解する必要があります。

難しいガイドラインをどう紐解くか


W3CのWebサイトをご覧いただくと、WCAGの「本文」「解説書」「達成方法集」といったガイドラインは、すべての内容が公開されていますが、情報量は非常に膨大で、表現も難解ですので、見た瞬間に苦手感覚を持つ方も多いと思います。

これを払拭するために最も重要なことは、「障がい者の目線」に立つことです。

分かりやすく言えば、「スクリーンリーダーが手放せない全盲に近い障がい者」のようなペルソナを作成して、その人物の目線で不快な体験をイメージすることです。そうすることで、何を伝えたいのかが少し見えてくるはずです。

例えば、WCAGの中に以下のような達成基準があります。

>2.1.2 キーボードトラップなし[レベルA:改善の優先度が高い]:
キーボードインタフェースを用いてキーボードフォーカスをそのウェブページのあるコンポーネントに移動できる場合、キーボードインタフェースだけを用いてそのコンポーネントからフォーカスを外すことが可能である。さらに、修飾キーを伴わない矢印キー、 Tab キー、又はフォーカスを外すその他の標準的な方法でフォーカスを外せない場合は、フォーカスを外す方法が利用者に通知される。

キーボードトラップとは何だろう…。多くの方は最初からつまずいてしまうのではないでしょうか。しかし、先ほどのように、ペルソナの目線で考えてみてください。あなたがあるサービスの手続きをパソコンで行っている最中に、図のようなモーダルダイアログが現れたとします。でも、Tabキーを押しても「閉じる」ボタンに移動しない。大変な負荷が掛かることが想像いただけるはずです。2.1.2で言いたかったのは、このような困った状況にならないように対処しましょう、ということです。

参照元:「WCAG2.1 ガイドライン(英語)」
https://www.w3.org/TR/WCAG21/、図は筆者作成

実際には、もっと細かい理解が必要ですが、どのような時もペルソナの目線で考えると、難しいガイドラインを紐解き、改善策を考えてみようという気持ちが湧いてきませんか。

後編の最後に


今回、「JaSST’24 Niigata」の中で聞いた「法律はとっつきにくい…」「国際規格は難しそう…」といったお悩みについて前編・後編と書かせていただきましたが、いかがでしたでしょうか。大事なことは実践です。ぜひ、皆さんが担当する製品やサービスのアクセシビリティ方針や計画を考えるところから始めていただければと思います。


執筆者プロフィール:長谷川浩之
SHIFT カスタマーエクスペリエンスグループ所属のCXシニアコンサルタント。

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