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IT古典良書を読み解く《第9回》「Appleと大ヒットを作り出すもの」

   第9回 Joel on Software(ジョエル オン ソフトウェア) 〜その6〜
        「Appleと大ヒットを作り出すもの」


One more thing…

こんにちは。スクラムマスターの伊藤です。
2021年も明けてしばらく経ちますが、あけましておめでとうございます。
今年も本blogを宜しくお願いします。

新年といえば、楽しみのひとつに福袋がありますね。みんな大好きAppleの福袋(Lucky Bag)をご存知ですか? Apple Storeが初売りで行い、必ずApple製品が入ってるうえ、運がいいとiPadどころかMacbookが入っているということで、行列が年々酷くなり最近は実施されていません。2021年はギフトカードがもらえる初売りセールでした。 もう時勢的に行列はまずいので、オンラインで復活してくれるといいですが。

というわけで、IT古典良書を読み解くはJoel on Softwareが復活です。IT業界に携わっている人はガジェット好き、Apple好きも多いですが、今回はJoel(ジョエル)じゃなくてJobs(ジョブズ)の話から大ヒットを作り出す秘密を読み解きます。

引用: More Joel on Software
207ページ「第26章ソフトウェアにおける高音域」
(原文)
- Hitting the High Notes
(日本語アーカイブ)
- ソフトウェアにおける高音域 https://bit.ly/3nMYH7n


《よもやま話》
Jobsのスピーチ プレゼンテーションのうまさは折り紙付きですが、最後に良く言うOne more thing… が有名です。(なんとWikipediaの項目がある)もうひとつと前置きして隠し玉または目玉を発表する流れですね。One more thing後ではないんですが、JobsがMacbook Airを封筒から出して薄さをアピールしたのが衝撃的でした。ちなみに筆者も後にMacbook Airを買いました。

モーツァルトのレクイエムを作曲するには

「凡庸な作曲家が5人いても(Joelは実名で書いてますが一応 伏せておきます)、モーツァルトのレクイエムは作曲できない。100年かかっても決して」というクリエイティブの分野での真理から話はスタートします。

これはスーパープログラマー1名と、凡庸なプログラマー5名に置き換えると生産性ばかりか、どんなに時間がかかってもスーパープログラマーが作成できるようなものは決して作成できないことと合致します。単純作業ではないので、人が多ければ良い製品が出来るわけでは決して無いのです。もちろん、品質やユーザビリティを度外視した、とりあえず動くもので良ければ人海戦術で作ることもできますが、ここからiPodとその他の音楽プレイヤーの話になります。

《よもやま話》
Winampをご存じの方いますでしょうか? 年齢がバレますね。最近の子はiPodも通じないのではという不安がありますが… Winampは以下の3つをWebサイトにかかげてMP3プレイヤーの市場を席巻しました。Windows Media Playerなど、他のプレイヤーを使う人は少数でした。

 ・ おしゃれな新しいルックス!
 ・いかした新機能!
 ・たいがいの部分はちゃんと動く!

そして、WinampはAOLに買収されWebサイトから上記の分は消され、メジャーバージョンアップ後に誰も使わなくなりました。

Appleの意思決定方法

世の中にはさまざまな製品があります。そして、何かしらに基づいて意思決定がされて製品が開発されます。価格なのか発売時期なのか多機能なのか、意思決定に基づくものはさまざまです。

本書でAppleについてJoelが語りだします。iPodについてですが、後継機のiPhoneにもその精神が受け継がれていることが分かります。

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iPodを見てみるといい。バッテリーが交換できない。だからバッテリーに寿命がきたら具合の悪いことになる。iPodを新しく買わなきゃいけないのだ。実際には工場に修理に出せばAppleはバッテリーを交換してくれるが、それには65.95ドル(2005年 当時)かかる。

なんで自分でバッテリーを交換できないんだ?

私の推測では、Appleは美しくセクシーなiPodの完璧に滑らかで継ぎ目のない表面に、安物の電気製品についているような醜悪なバッテリーカバーを付けたくなかったのだ。小さな引っ掛かりがあってすぐに壊れ、継ぎ目にはごみが溜まってしまう。不快なことだらけだ。私は家電製品でiPodほど継ぎ目のないものを見たことがない。まったく美しい。すべすべした川辺の石のような美が感じられる。バッテリーカバーの引っ掛かり1つが、この川辺の石の効果を台無しにしてしまうのだ。
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そして、こう繋ぎます。「Appleはスタイルに基づいて意思決定したのだ。」そうです。表題の答えはスタイルでした。iPodはスタイルに基づく意思決定がいっぱい詰まっているそうです。

たまに「iPhoneが電池交換出来ないのはAppleが(買い替えさせて)儲けたいためだ」と主張する人もいますが、恐らく的外れでしょう。そしてモーツァルトの話です。

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そしてスタイルというのはMicrosoftの100人のプログラマーや、●●●(実名のため自主規制)の200人の工業デザイナに到達できるようなものではない。それは彼らの下にはジョナサン・アイブがいないからで、そしてジョナサン・アイブみたいな人間はそうそういるものではない。
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ジョナサン・アイブはご存じの方もいるでしょうが、iMac、iPod、iPhone、iPad、iOS7(フラットデザインになったときです)ではOSのデザインも行ったデザイン界の巨匠です。

画像1

ジョブズがApple復帰後の狼煙をあげたiMac

画像2

iPhoneの基になったiPod

大ヒットを作り出すもの

iPod、そしてiPhoneが大ヒットした理由はさまざまあると思いますが、その1つがカチカチ音です。どういうことなのか、Joelの話を引用してみましょう。コストよりもスタイルを重視するAppleの意思決定がいかされています。(Joelが、いわゆるガジェット好きのように早口で暴走気味になっていますが。良く分かります。)

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悪いけど、iPodの話になると止められない。あのカチカチと音を立てる素敵なサムホイール……Appleが余分なお金をかけてiPodの中にスピーカーを入れたのが、それがカチカチという音がサムホイールが聞こえるようにするためなのだ。彼らはカチカチという音をヘッドホンから聞こえるようにすることで、何セントか節約することだってできた……何セントか! しかし、あのサムホイールはユーザにコントロールしている感覚を与えてくれる。人々はコントロールしている感覚が好きなのだ。コントロールできていると嬉しく感じられる。サムホイールが、ユーザの操作に対して、スムーズに、流れるように、音を立てながら反応すると、ユーザは喜びを感じる。その他のガラクタのような6,000ものポケット家電とは違っている。電源スイッチを入れてから起動するまですごく時間がかかり、何か起きているかわかるまでに1分も待たされる。これでコントロールしているように感じられるだろうか?

スタイル。

幸福感。

感情にアピールするもの。

これらこそ、ソフトウェア製品であれ映画であれ消費者家電であれ、大ヒットを作り出すものなのだ。
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まず、カチカチ音って何だよという方は参考動画を見つけました。
[参考] https://www.youtube.com/watch?v=X0oIc-xSEoY

我々は何かに行き着いたようです。大ヒットを作り出すには、高機能であること安いことというだけでなく、スタイル・幸福感・感情にアピールするものが重要ということですが、これは言い換えると、触ってみたいデザイン、触っていて心地いいということではないでしょうか。スタイルだけ良くても売れるわけでなく、例えばiPhoneはハードウェアとソフトウェアの親和性が心地いい操作性を生み出しています。

良いソフトウェアはデザインとUIの親和性が取れていて、スムーズに操作できて、その操作性も心地いいものです。世の中のヒット商品もこういった要素が必ずあるようです。

商品を開発・設計する際に、市場調査しユーザからの要望を取り込み機能をたくさん付けることや、コストダウンすることも大切かもしれませんが、こういった視点を持つことで、他社と一線を画した商品が生まれるかもしれません。

《よもやま話》
Appleと良く比較されるGoogleですが、Googleの意思決定方法は、スピードだと筆者は考えています。

現在は変わりつつあるのかもしれませんが、世界最速の検索速度を誇り、スピードのためにPythonを使用し(当時は最速だった)、データベースやOS、ブラウザまで自分で作ってしまい、表示が速いサイトほど検索結果が上位にくるようになっています。また、Google Mapという当時のWebデベロッパーが度肝を抜くサービスを開発し(補足:当時の地図サイトは画像を都度読み込んでいて、滅茶苦茶遅かったのに、Google Mapは移動や拡大縮小がシームレスに行え、どうやって出来てるんだと事件になりました)、YouTube(補足:当時、動画配信サービスは再生されるまで凄い時間がかかり夜中にダウンロードしておくといったことが平然と行われていました。再生もアップロードも滅茶苦茶速いのに画質も良いYouTubeは瞬く間に大人気になりました)を買収するなどスピードに拘っていることが分かります。

※SONYとJobsのマーケティング話も入れようとしたところ膨大になってしまいそうだったので割愛。機会があれば別途書くかもしれません。

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執筆者プロフィール:伊藤 慶紀
大手SIerにて業務用アプリケーションの開発に従事。
ウォーターフォールは何故炎上するのか疑問を感じ、アジャイルに目覚め、
一時期、休職してアメリカに語学留学。
Facebookの勢いを目の当たりにしたのち、帰国後、クラウド関連のサービス・プロダクト企画・立ち上げを行う。
その後、ベンチャーに転職し、個人向けアプリ・WebサービスのPM、社内システム刷新など様々なプロジェクト経験を経てSHIFTに入社。
趣味は将棋、ドライブ、ラーメン、読書など

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