心理的安全性とアジャイルの関係について
~心理的安全性はチームで仕事をする際に一番重要視されるべきものです~
はじめに
こんにちは。 SHIFTアジャイルコーチの谷川です。
私は、IT業界の現場で30年ほど暮らしておりますが、最近では、アジャイル関連の仕事にどっぷりはまり込み、毎日をとても楽しく過ごしております。
最近、外部のイベントで今回のテーマにした「心理的安全性とアジャイル」の関係について、座談会形式でやっていたものに参加しました。
「心理的安全性とアジャイル」の関係について着目されるようになったことはとても良いことなのですが、Well-beingを長年研究してきた私にとっては、とても明確な答えを持っていますので、今回はそれを書きたいと思います。
「心理的安全性」とは?
「心理的安全性」は1999 年、組織行動学の研究者である、米・ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授によって提唱されました。
「心理的安全性」とは、心理学用語「サイコロジカルセーフティ(psychological safety)」を和訳したものであり、組織内で自分の考えや気持ちを誰に対しても安心して発言でき、人間関係が壊れることがなく、内部で安心感が共有されている状態のことを指します。
忖度がなく、相手の視線や思惑などを気にせず、自分の意見が率直に言える状態です。
「心理的安全性」の詳細については、下記の書籍がとても参考になります。(*1)
「ヌルい職場」とは違う?
「心理的安全性」と「ヌルい職場」の違い
指摘しづらいことでもチームのために発言しても、居づらい雰囲気になることがない、心理的に安全であるということなのです。すぐに妥協する「ヌルい職場」ということではありません。 仕事にの基準(成果を追求する)、責任が高いかがポイントになります。
心理的安全性を「仲良しクラブ」や「居心地が良い」状態と混同してしまうと、「笑い声がある楽しい職場」が目的になり、チームの成果は伴いません。
心理的安全性を高めることが「目的」ではないということです。つまり心理的安全性を高めるということは、「チームの生産性を高めるための手段」にすぎないということになります。人に優しく結果に厳しいのが、心理的安全性の高い職場となります。
次に、「責任」と「心理的安全性」の4象限モデルの図を下記に示します。
自分の職場がどのゾーンにいるか考えてみてください。
日本企業の特徴として、右下にある「キツい職場」(不安ゾーン)が多いと言われています。そこから、いかに右上の「学習ゾーン」にもっていけるかがポイントとなる訳です。
心理的安全性チェックリスト
一般的によく知られている「心理的安全性チェックリスト」をもってきました。
これを活用して、自組織の心理的安全性を測定してみてください
<設問の解説>
Q1:このチームではミスをしてもたいてい非難されない
この設問は、「非難」そのものが悪いというように誤解されやすいものとなので注意が必要です。
ミスをした人を責めるのではなく、ミスが起きたプロセスの議論に焦点をあて、それを報告してくれた行為を称賛するようにします。
ポジティブな言葉をかけあえるようなルールを浸透させましょう。
Q2:このチームでは難しい問題を指摘し合うことができる
伝えにくい内容もお互い指摘しあうことで、大きな成果が期待できるようになります。
Q3:このチームには異質な個性を理由に他者を拒絶する人がいない
性格や考え方は人それぞれなので、様々な多様性を認め合う環境であることが大切です。
Q4:このチームではリスクの高い発言や行動をとっても安全だと感じられる
よい時も悪い時も誰でもフラットに発言できるような、話しやすい関係構築がポイントです。チームリーダーの現場に歩み寄る姿勢が重要です。
Q5:このチームでは他のメンバーに助けを求めることは容易だ
他のメンバーに助けを求めることに対して、「無能だと思われるのではないか?」という不安を払拭することが重要です。「わからない」「Help!」が気軽に言える環境です。
Q6:このチームでは他人の仕事を意図的に陥れるような行動をしない
チームに他人を妬んだり、蹴落とそうとしたりするメンバーがいると、お互いに協力し合うことが難しくなります。実は、私も、こういうメンバーがいる職場で働いていたことがありますが、その時は「逃避」して解決させました。苦い経験です。
Q7:このチームでは自分のスキルや能力が尊重され仕事に活かせていると感じられる
自分の強みが活かされることで達成感や自己肯定感が高まり、モチベーションが高い状態で業務に取り組めます。短所を改善するより、長所を伸ばした方が効果が大きいということです。
そもそもなぜ心理的安全性が低いのか?
みんなが職場で感じている5つの不安
①無知だと思われたくない(質問をしなくなる)
②無能だと思われたくない(失敗やミスを隠しやすい)
③否定的だと思われたくない(問題を指摘しにくい)
④邪魔だと思われたくない(アイデアを提案しなくなる)
⑤上司としての威厳を保つため、弱みを見せられない
これらの不安により、心理的安全性が低い組織になってしまします。
チームメンバーが仕事を抱え込み始めたり、 チーム全体での生産性が下がったりするなど、さまざまな悪影響が生じます。 これらを払拭するコミュニケーションやメンバー共通の意識やルールづくりが必要になります。
では、どうやって不安を解消するのか?
不安を払拭するには、各個人が「自信」を持つことが重要です。各個人が自信が持てるようになる4つの施策を紹介します。
①チームで共通の達成目標や価値観を持つ
組織のパフォーマンスを高めるためには、チームの共通目標や価値観を浸透させることが大切です。「目標達成」という共通のゴールに則って、積極的に会議で発言をしたりフィードバックし合ったりする雰囲気も生まれやすくなります。
②1on1 ミーティングの導入
業務進捗報告ではなく、マネージャーとメンバーの相互理解の時間になります。マネージャーから積極的に自己開示「信念・価値観・期待感」を話すことで、メンバーも自己開示しやすい環境になります。お互いが大切にしている価値観、理想の働き方、将来の夢などメンバーの話を聞き、理解することが重要です。
③「人に優しく、結果に厳しく」
「人」と「タスク」を区別して、人の苦労をねぎらいながら、ネガティブなフィードバックは結果にのみ伝えるというアプローチ。チームにとっても個人にとっても効果的なコミュニケーションとなります。 「例:昨日は残業してこの資料つくってくれてありがとう。ただ、この部分は再検討してくれないかな」
④「ありがとう」を伝え合う
人は感謝されると、幸せホルモンとも呼ばれるオキシトシンが分泌されます。また「感謝した側」にも同じく分泌されることも分かっています。オキシトシンは幸福感を高めるというデータもあり、心理的安全性を高めるには有効な手段になります。
日本の企業において、この現場レベルの 「感謝・称賛の文化」 が醸成されているところはかなり少ないです。
しかし、この効果は絶大であるため、ツールなどを活用することにより、意識的に進める必要があります。
心理的安全性とアジャイルの関係
心理的安全性を高めるには前述の4つの施策が良いと言われていますが、現場では、②の1on1ミーティングの導入が普及してきたくらいの状況ではないかと思います。 しかし、その他の施策については、実際にどうやったらいいのか?と頭を悩ませている現場が多いように思います。
そこで、お勧めしたいのが、アジャイル関連のプラクティスである、インセプションデッキと、レトロスペクティブ(ふりかえり会) です。
インセプションデッキの「われわれはなぜここにいるのか?」は、まさに①のチームで共通の達成目標や価値観を共有することに役立ちます。 また、③、④については、レトロスペクティブ(ふりかえり会)の効果的な運用により、これら文化をうまく醸成していくことが可能です。
もうお気づきの方もいると思いますが、心理的安全性を確保するために、アジャイル関連のプラクティスが活用できるということは、ソフトウェア開発プロジェクトではない、チームで仕事をするものであれば、どんなプロジェクトでもこのアジャイル関連のプラクティスの活用が可能であるということです。
このことをもっと世の中の多くの人に知ってもらいたいと思っています。
「心理的安全性とアジャイル」の関係の詳細については、下記の書籍を参考にしてください。(*2)
チームの心理的安全性を確保するために、「ふりかえり会」の効果的な運用はかなり鍵になります。
逆に言えば、この「ふりかえり会」を、効果的な運用ができる人(スクラムマスターやチームリーダーなど)が必須となる訳です。
「ふりかえり会」における様々な工夫については、下記の書籍を参考にしてください。(*3)
このふりかえり会のファシリテートはとても重要であり、良いふりかえり会ができればその効果が絶大なものになります。
良いファシリテートをするため、スクラムマスター、チームリーダーを効果的に育成する必要がある訳で、当社では、この領域に様々な経験を持つ、アジャイルコーチの活用をお勧めしています。
まとめ
ここ数年でとてもいろんな場面で「心理的安全性」というキーワードを聞くことが多くなりました。 そのため、この「心理的安全性」についても、様々な誤解があると言われています。 それだけ注目されているからこそ様々な誤解が生まれていると思いますが、この記事を読んで、正しく「心理的安全性」について理解し、「いい雰囲気の職場・チーム」 を作っていただきたいと思います。
心理的安全性が確保されている環境であれば、Well-beingな状態になりやすく、生産性の高い仕事がすることができて、より一層充実した日々が送れるようになると思います。
※ 「Well-being」の詳細については、私の過去のブログを参照してください。
◆参考文献
(*1) 斉藤 徹 「だから僕たちは組織を変えていける」 2021年11月
(*2) 松本 裕 「心理的安全性とアジャイル」 2022年6月
(*3) 森 一樹 「ふりかえりガイドブック」 2021年2月
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