IT古典良書を読み解く《第13回》ビッグマックとスケーラビリティの問題
第13回 Joel on Software(ジョエル オン ソフトウェア) 〜その8〜
「ビッグマックとスケーラビリティの問題」
ビッグマック指数
こんにちは。スクラムマスターの伊藤です。
マクドナルドの「ビッグマック」たまに食べたくなる人も多いのではないでしょうか。夜マックだとパティが2倍にできるのも肉肉しくていいですよね。(ちなみに、個人的にはクォーターパウンダーが好きです。撤退が残念で代わりにバーガーキングのワッパーを食べます)
写真は、上から「ビッグマック」、「チーズクォーターパウンダー」、「ワッパー」です。
いきなりハンバーガーの話から始まりましたが、これらはダイレクトマーケティングでもなんでもありません。ビッグマック指数という経済用語をご存知でしょうか。Wikipediaには以下のように書かれています。
世界中で売っているビッグマックだからできることですね。ビッグマックの値段は、そこまで高くも安くもないので、その国の経済力を図るのに適しているという、なかなか考えられた指数です。(最近はスタバのラテで同様の指数があるそうです)基本的には米ドルで比較するようですので、価格が据え置きでも、その国の通貨が強くなれば指数があがるといったこともありそうです。
ちなみに2021年度の主要国をピックアップしますと、
出典: https://www.economist.com/big-mac-index
カルロス・ゴーンが日本を脱出した真の理由がここに隠されていたとは・・・。レバノンは情勢が不安定なところがあるので(2020年はビッグマック指数が2位だったのです)、ビッグマック好きはロシアに行くのが良さそうです。
ここまで言及しておきながらあれですが、テーマはビッグマック指数ではなく、世界中同じ品質で提供されるビッグマックはどのようにしてスケール(大規模に拡張:名詞でスケーラビリティ)したのか、その秘密を探ります。そして、IT業界の業務も世界中に同じ品質で提供するにはどうしたら良いのかを読み解いていきます。
引用: Joel on Software
261ページ「第33章ビッグマック 対 裸のシェフ」
(原文)
- Big Macs vs. The Naked Chef
(日本語アーカイブ)
- https://bit.ly/3yXYggi
《よもやま話》
海外旅行が好きな方には常識かもしれませんが、マクドナルド(McDonald’s)は正確にはマクダァーナルと発音しますので、海外でマクドナルドと言っても通じません。日本に進出する際、マクダァーナルとは日本人は発音しづらい読みづらいとのご配慮(?)によりローマ字読みでマクドナルド(McDonald’s)になりました。ちなみにアメリカでもビッグマックの大きさは日本と一緒ですがドリンクのサイズが違い過ぎます。(日本のLよりアメリカのSが大きいし、そもそも店内はドリンクバー。Green TeaはNon-Syrupを選ばないと、大変なことに。激甘注意!)
ついでですが、イケア(IKEA)はアイケアです。アメリカではiPhoneのように1文字目のI(アイ)はイと発音しないようで、私もアイトゥ(ito)と呼ばれました。
スケーラビリティの秘密
まず、スケーラビリティとは何でしょうか。
Wikipediaには、
とあります。
正直、良くわからないので、簡単に説明すると、「お客様が増えても品質を維持しながら規模を拡大する」ことではないでしょうか。
これを世界一(?)うまくやっているのがマクドナルドという訳です。ビッグマックは世界中どこでも同じ品質のものを食べることができます。海外で食事が合わなくマクドナルドを見つけてホッとするという話もうなずけます。Joelは以下のように辛辣に評価しています。
簡単なようですが、実はこれは凄い難しいことなのです。ビッグマックはなぜ世界中で同じ品質を維持できるのでしょうか。それが2つ目のビッグマックの秘密です。
※長いので抜粋にしましたが、伏せ字も含めて引用元を読んでいただけると面白いです。
レシピと同じ材料があれば、同じ品質になると思われますが、そう簡単ではありません。材料もその場で調理する工程を極力減らし美味しさよりも、品質を維持する方に力をいれ、ミスする前提でそれを防ぐシステム化を用意するという、ここにスケーラビリティの秘訣があるようです。(ただし、味は犠牲になります。チェーン店の宿命ではありますが)
続いて、マクドナルドのコックと、イギリスの天才シェフ ジェイミー・オリバー(通称 裸のシェフ)を比べています。
裸のシェフはマニュアルには従わず、感性で食材を仕入れ即興で料理を作ります。そして、その料理はマクドナルドより美味しいということは疑う余地はないでしょう、そしてJoelはなぜかと問いかけています。
言われてみれば、一理あります。少し考えてみましょう。
その理由は次節にて。
引用: https://www.jamieoliver.com/
《よもやま話》
世界の大富豪は毎日何を食べているか気になるところですが、毎日マクドナルドを食べている人がいます。私が知る限りトランプ大統領(ビッグマックとフィレオフィッシュを2個ずつ食べるというから恐ろしい)と、世界一の投資家と言われるウォーレン・バフェット氏(毎朝、マクドナルドのマフィンを食べているそうです)の二人ですが他にもいるかもしれません。
だからといって毎日、マクドナルドを食べても大富豪や大統領にはなれずカロリー過多になるだけのようですが、彼らは自分の好みに忠実であったり、リスク回避(安定している、悩み時間がなくなる)といった側面があるのかも知れません。
※ちなみにバフェット氏は90歳(存命ですよ)。毎日、チキンラーメンを食べてた日清の創業者である安藤百福は96歳まで健康長寿でした。
スケーラビリティの問題
前節の答えをすぐに言う前に、裸のシェフがレストランを開店したらどうなるか考えてみましょう。ここにスケーラビリティの問題が潜んでいます。
レストランは繁盛し、非常に高い収益を上げますが、1人のシェフではそんなに多くの料理は作れないので、収益は限界に達します。そこで、別のシェフを雇い、支店をオープンすることにしました。ここでスケーラビリティの問題が発生します。
まずは選択です。自分と同じぐらい優秀なシェフを雇うか、給与が安い若いシェフを雇うかです。
自分と同じぐらいのシェフを雇うと同じぐらいの待遇が必要となり、収益は上がらないためスケールは不可能です。そこで、安いシェフを雇い、緻密なレシピを与えることになります。しかし、これは上手くいきません。旬のものを取り入れた料理やシェフの気まぐれサラダを毎日詳細なレシピ化するわけにはいきませんし、仕入れの問題もあります。これを解決しようとすると、限られた材料で限られたメニューを作るしかありません。
しかしながら、ラーメン店の支店が美味しくないことがあるように品質を維持するのはとても難しい作業です。
ここでマクドナルドの偉大さが目に付きます。○○店のビッグマックは美味しくないとは聞かないでしょう。(逆もしかりですが、○○店のポテトは美味しいなど)
ちなみにマクドナルドのポテトはリスク管理のため世界中で特定の種類のポテトを栽培し、あらかじめ切って大量に冷凍保存してあるそうです。そしてマニュアルによって揚げられます。
Joelのまとめ
前節の問いは、スケールと品質が両立しないことに尽きるかと思います。
才能はスケールすることが困難で、スケールするには、品質を落としてマニュアル化することになるためです。
続いてIT業界の例をみてみましょう。
メソドロジーには気を付けろ!
飲食店のスケーラビリティの問題をみてみましたが、IT業界(特にITコンサルティング)においてもまったく同じことが行われているとJoelは述べています。
(長文のため抜粋・簡略化して引用しております)
なんだか聞いたことあるような話ですが(実話なので当然ですが)、このサイクルは何十回と起きているようです。
ところでメソドロジーとは何でしょうか。
引用:実用日本語表現辞典
○○メソッド(やり方)はすっかり日本でも定着した感じがありますが、体系化されたメソッド群のことを指すようです。アジャイル開発でもメソッドを使いますのでメソッド自体が悪という訳ではないようです。
Joelはこの物語の教訓を述べています。
メソドロジー(体系化された手法)は、一定の品質に引き上げることには有効ですが、それ以上にはなれない問題があるようです。
これは高級レストランで高いお金を払ったので、さぞ美味しい料理が出てくると期待したのにハンバーガーとポテトが出てきたといった感じでしょうか。お腹は膨れますが、求めているものと違います。ITコンサルティングでも似たようなことが起きているようです。
さて、拡大しつつ品質を維持するにはどうしたらいいのでしょうか。
下りのエスカレーターを登れ!
「品質を維持し、拡大する」スケーラビリティの問題を解決するにはどうしたらいいのでしょうか。
Joelは2つほど述べています。
小さいままで十分だの案は誰でも出来るメソドロジーを作成し、拡大はせず、優秀な人間で拡大していく方式です。ちょうど、飲食店であればチェーン展開せず、弟子をとって十分育ったら暖簾分けするような方式でしょうか。
そして、スケールしているIT企業がいっぱいあるじゃないかと思っていた方もいるでしょう。恐らくその会社はプラットフォーマー(GoogleやAmazon、Facebookなど)ではないでしょうか。
ソフトウェアは非常に良くスケールします。プラットフォームを作って拡大することが一つの解答のようです。しかしながら、ITコンサルティングのような会社はそうもいきません。弊社も似たようなところがあります。ただ、手前味噌で恐縮ですが拡大ができているようなのでその理由を自分なりに考えてみました。
まず、品質を維持するという守りの姿勢ではなく向上させるという姿勢があると思います。やれることも拡大しています。これによって、優秀な人材を集めると収益が見合わないという問題を、収益も拡大することで解決しています。
次に、ある程度のマニュアル(メソドロジーとは呼ばれていません)はありますが、能動的に動ける人材を重視しています。また、飲食店の話ですが「餃子の王将」はチェーン展ですが各店舗に裁量を持たせていて、基本メニューさえ作れば独自メニューもOKとしていました。ファンの間では聖地と呼ばれる店舗があったり普通のチェーン店と一線を画していました。こういった手法も有効かもしれません。(マクドナルドも国単位ですが独自メニューOKです)
収益を拡大するには品質を維持ではなく、向上させる攻めの姿勢が大事なのではと考えられます。どちらにしても「才能はスケールできない」という言葉が表すように、根幹になるものは最高の人間を雇うことです。SHIFTでは一緒に働く人材を大募集していますので興味がありましたら是非お願いします。
《よもやま話》
ちょっと真面目な話ですが、「人生は下りのエスカレーターを登るようなもの、立ち止まっているとどんどん下に落ちていく」といった趣旨の至言が好きです。誰の言葉か存じ上げないのですが(調べた結果がリンク先です)
・・・ 実は現状維持は大変です。現状維持するためにも日々、成長・向上していく必要がありそうです。
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