IT古典良書を読み解く《第11回》後編「古くて新しいビジネスモデル」
第11回 10Business Models that rocked 2010 |後編
「古くて新しいビジネスモデル」
10 Business Models that rocked 2010
こんにちは。スクラムマスターの伊藤です。
こちらは、「古くて新しいビジネスモデル」の後編になります。前編をお読みでない方は、前編を先に読まれることを推奨します。
《よもやま話》
文庫本はよく前後編に分かれていることがありますが、たまに前編・中編・後編に分かれていることがあります。本屋で中編だけ売れていたらどうするんだと突っ込んでいる人がいましたが(確かに)、前編が読み終わって、「中編に続く」との記載に目を丸くしそうですね。
ちなみに、本書に中編はございませんので前編まで読まれた方、ご安心ください。
5. Humble Bundle
引用元 https://www.humblebundle.com/
Humble Bundle(ハンブルバンドル)は直訳すると謙虚なバンドルで、主にゲームといったデジタルコンテンツの販売サイトですが、そのビジネスモデルが通常と異なります。
ビジネスモデルはPay what you want(支払いたい分だけ支払う)方式です。設定した金額(Steamでゲームをするには$1以上)を払うことバンドルされたゲームが遊べます。支払った金額は慈善団体の寄付にあてることができ、その割合も設定できます。Humble Bundleにはチップという形で収益が入ります。もちろん、ゲームを提供してくれたメーカーにも還元されます。インディーズゲームだけでなく大作ゲームがバンドルされることがあったり、単体販売も行っており、そちらでも寄付することができます。日本からでも利用できますので、Steamを利用している方は1度検討してみてはいかがでしょうか。
4. Free with in-app sales
こちらは特定のサービスではなく、アプリ内課金のことです。主にモバイルゲームのことを指します。
基本料金無料のスマホゲームで遊んでる方も多いと思いますので、このビジネスモデルは分かりやすいかと思います。主にアプリ内で利用できる仮想通貨(石とかさまざまな名前で呼ばれます)を購入し、それを利用することでアイテムが購入できたりするシステムです。
無料アプリといえば広告費で収益をあげることが多かったのですが、2010年にアプリ内課金の収益が広告による収益を上回りました。そこには、中毒性のある体験を提供することと、さまざまな心理学などを応用した、課金したくなる仕組みが随所に散りばめられています。
3. Quirky
Quirky(クァーキー)は突飛な、風変わりなという意味になりますが、共創プラットフォームという面白いものを提供しています。
共創プラットフォームビジネスとはどういったものかと言いますと、まずはこんな商品が欲しいというアイデアを出します。半端なアイデアでなく実際に売れるものということで登録料($99)が必要になります。デザイナーのコミュニティがこの製品を設計・改善します。そして、サプライヤーはその商品の購入希望者が一定数に達すると生産を開始することを設定できます。無事にプリセールスされ、生産が開始されるとQuirky上で販売されます。その利益を発案者やデザイナーで分配していきます(つまり売上の分配後の残りがQuirkyの取り分になります)。
誰も損をしない、よく考えられたモデルのようですが、現状はニッチよりになってしまい思ったより成長していません。後述のビジネスモデルに代替できることが影響しているかもしれません。個人的にはモノづくりが得意な日本でも通用しそうなビジネスモデルかなと思っています。商品だけでなくアプリにも応用できますね。
2. Airbnb
日本でも有名なAirbnb(エアービーアンドビー)です。民泊サービスを世界中で提供している会社です。日本の法律を変えましたね。Spotify以来、久々に日本語ページがあります。
Airbnbのビジネスモデルはマッチングサービスです。部屋を貸したい、借りたい人という需要と供給をマッチングさせ、そこから手数料にて収益をあげています。手数料は価格によって異なるそうです。Airbnbは旅先で民泊するという新たな価値を提供することで大人気になりました。宿泊予約サイト(ホテルなどを含む)の中で世界2位の予約件数とのことです。
1. Kickstarter
引用元 https://www.kickstarter.com/?lang=ja
Kickstarter(キックスターター)は日本でもそれなりの知名度があり、ご存知の方もいると思いますが、クラウドファンディングを提供している会社です。
クラウドファンディング(ちなみにCloud(雲)でなくCrowd(群衆)です)とは資金調達の一種になります。こういったことをしたいけど資金が足りない。そこで、資金調達を募って、投資してくれた方には、その投資額に応じてリターンを用意する。そして、最低資金調達額を設定して、その金額以上 資金が集まればプロジェクトは開始され、集まらない場合、そのプロジェクトは中止され資金は返却されます。
クラウドファンディング自体は以前からあったのですが分かりやすい仕組みで、Kickstarterはクラウドファンディングシステムのデファクト・スタンダードになりました。類似サービスもほぼ模倣されています。
なぜか、図にはないのですがKickstarter は調整された資金から5%の手数料で収益をあげています。
《よもやま話》
Kickstarterで一番資金調達をした日本人はゲーム「シェンムーⅢ」の作成資金を調達した鈴木裕さんで、200万ドル目標のところ69,320人から633万ドル以上集まりました。
これは、開発が中止されていた「シェンムーⅢ」が資金調達で開発が再開されるということで、欲しい人は少額投資でも特典でゲームソフトが手に入るという仕組みも刺さり、ファンが自ら出資するだけでなく拡散して見事目標を達成しWin-Winの状態になりました。
特典は高額投資になるとゲームソフトに加えて、クレジットに名前の表示や、ゲーム内に登場する自由帳に好きなメッセージを入れられるといったものがありました。
まとめ
2010年に躍進した10個のビジネスモデルをみていただきましたが、いかがだったでしょうか。どのサービスもビジネスモデルも現在でも使用されているものばかりなことに気付きます。ざっと挙げてみると以下のようなものになります。
・データ販売
・サブスクリプション
・手数料ビジネス
・フリーミアムモデル
・アプリ内課金
・マッチングサービス
・クラウドファンディング
SNSでの拡散、寄付といったキーワードも複数見受けられます。そして、紹介した10のビジネスモデルを採用したサービスは今でも続いており(IT業界で10年サービスを続けるのは大変なことです)これらのビジネスモデルが優れていることが分かります。
成功した要因として、もう一歩、広い視点からみてみると以下のような要素が浮かび上がってきます。
プラットフォーマー強し!
以前、「ビジネスモデル・ジェネレーション」の著者が来日して講演をした際に参加者に「Googleは何故強いのか」と問いかけました。会場からさまざまな答え(技術力、人など)が挙がるなか、回答は「プラットフォーム」を持っているからでした。仮にめちゃくちゃ有能な技術者が一人退職しても、Google検索やGmailに影響はないはずです。既に稼働するプラットフォームを持っていることが強みになります。
今回、紹介したビジネスモデルもプラットフォームをもって手数料で収益をあげているサービスが多数ありました。逆に、アプリ内課金の収益は拡大していますが、そこから更に手数料を徴収しているAppleやGoogleは笑いが止まらない状態のはずです。(人気ゲームフォートナイトに訴えられたのも記憶に新しいところです)
しかし、いくらプラットフォームを用意してもユーザーが少なくては意味がありません。ネットワーク効果があるビジネスであればAmazonモデルを採用すべきかもしれません。
新たな価値を提供すべし!
Airbnbと今回は含まれていませんが、Uber(フードデリバリーではなく、ライドシェアの方です)は、一緒に旅行のあり方(ホテル + タクシー移動 → 民泊 + ライドシェア移動)を変えたサービスです。
Spotifyは音楽を購入するものから、利用するものに概念を変えていきました。また、お金を払うことで、その一部が慈善団体に寄付されるといった付加価値も魅力的なようです。ここには感情にアピールするワクワク感があるのかも知れません。
新しいサービスを思いついて、いざビジネスを始めるにあたって重要なことはさまざまあると思いますが、どう収益をあげるのかというビジネスモデルもその一つであることは間違いありません。
アプリやWebを作成して安易に広告収入モデルにではなく、フリーミアムモデルやアプリ内課金の方が良いのではないか。いやいやプラットフォーマーになって、手数料ビジネスモデルか、実はサブスクリプション型が良いのではないかと検討したり、はたまた全く新しいビジネスモデルを構築して、紹介される側になるといったビジネスモデルの検討にお役立ていただければ幸いです。
おまけ
Uber Eats(ウーバーイーツ)のビジネスモデル図を作ってみました。
手数料は35% それは商品価格上げるしかないですね。
IT古典良書を読み解く《第11回》前編「古くて新しいビジネスモデル」
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