後編|DAAE流、円安におけるエンジニアへの影響を調査してみた
はじめに
こんにちは、株式会社SHIFT DAAE(ダーエ)の、でじまです。
DAAEとはデザイン(Design)、迅速性(Agility)、組み合わせ (Assembly)、経済品質(Economic quality)の頭文字をとったSHIFTオリジナルのプロダクト開発フレームワークです。
前回は円安の歴史と業界分析についてお話ししました。
日本は、今回(2022年)の円安情勢を含めて3度、ドル円150円台ほどの円安相場を経験しています。1900年代の円安相場では、プラザ合意の反動やアジア通貨危機など諸外国の政策により、円の価値が低下したのに対し、今回の円安は、日本の技術力や将来性などに対しての懸念から円の価値が低下したのではないか、と一部言われています。
今回は引き続き「DAAE流、円安におけるエンジニアへの影響を調査してみた」の後編をお送りします。
1. 円安における調査ソース
前編に引き続き、後編も以下の参考文献を元に、調査を進めていきました。
金融機関の為替データ
みずほ銀行ヒストリカルデータ
オフショア開発のデータ
オフショア白書
エンジニア単価のデータ
スタック・オーバーフロー
※本稿内の図表は上記ソースよりSHIFTにて作成
2.日本のオフショア事情について
2022年の最新のオフショア動向
オフショア開発. comが発注先選定の依頼を受けるなかで、発注者が国の指定した場合のアウトソース先のをまとめてみました。データによると、一番人気はベトナムで48%となっています。次いで、フィリピンの19%、インドの12%と続きます。
オフショア開発が日本で流行となった当初からアウトソース先となっている中国でした。しかし、今回の結果を参照すると、7%と低い数値となっており、既にオフショア先という選択肢からは外れてつつあることが見てとれました。
一方で、新たなオフショア開発先として、バングラデシュやインドネシアなどの国が上がってきました。なぜ、オフショア開発先として、ベトナムが人気であるのかこの後詳しく見ていきます。
ベトナムについて
先ほどの調査にて、半数近くがベトナムを指定していました。その理由をいくつかの観点から見ていきます。
IT人材が豊富
国策としてIT人材の育成を掲げており、中学生からITの授業が必須化され、年間5万人以上のIT技術者を輩出していると言われています。
日本語を話せる人材がいる
ベトナムの義務教育で英語と並ぶ第一外国語に日本語が選ばれており、親和性が高いです。また、開発の知識と日本語を話せる能力を持つ「ブリッジ」と呼ばれる人材がいます。ブリッジの中には、日本留学の経験をもつなど、日本文化に理解を示す人材も多くいます。
エンジニアが優秀
エンジニアの給与水準の上昇がみられるベトナムの社会環境により、より高度なスキルを習得する意欲が高いと言われています。
日本人にとって利便性の高さ
日本とベトナムの時差が2時間しかなく、ベトナムの祝日が日本よりも祝日が少ないために稼働日数が多いです。また、日本とベトナムのアクセスが良く、東京から6時間で到着できます。
人件費の安さ
ベトナム人エンジニアの賃金水準は、新卒で月300ドル~、2~3年経験のある若手でも月400~800ドルと日本よりも安いという特徴があります。
日本やITに適した人材が豊富、日本との利便性の高さ、人件費の安さなどの理由から、日本のオフショア先としてベトナムが人気なのか分かりました。
なんと実は、SHIFTとベトナムは関りがあり、それがSHIFTASIA です。
オフショア先として、テストや開発など委託しています。それでは簡単に、SHIFTASIAについてご説明していきます。
SHIFTとベトナムの関わり SHIFT ASIA
SHIFT ASIAは、2016年にベトナムのホーチミンを拠点として立ち上がりました。SHIFTグループのグローバル拠点としてアジアの優秀なエンジニアが集結しています。サービスとしては、マニュアルテストやオートメーションテスト、セキュリティーテスト、さらにはオフショア開発の品質保証コンサルティングまで、幅広くサービスを日本国内、及び英語圏にも提供しています。
このようにSHIFTでもオフショア拠点を立ち上げ、海外の海外にも一緒に働く仲間が集結しています。
SHIFTもこのようにオフショア開発を行っておりますが、今回の円安によりどのような影響があるのか見ていきます。
3.円安とオフショア
ここまでの話を踏まえて、改めてエンジニア待遇が直近5年でどう変わってきたかを分析してみたいと思います。
世界の有名なエンジニアコミュニティである、 スタック・オーバーフローの給与データをもとに、エンジニア給与を分析してみました。
スタック・オーバーフローの給与データは、例えば収入のベースがYearly/Monthly/Weeklyと分かれており、また、あくまで自己申告データに基づきますので、分析に扱う際は慎重に精査する必要があります。
今回はYearlyベースのデータを利用したうえで、一定存在する異常値(年収2億や、年収10万円等)を排除した形で分析を進めてみました。
エンジニアの給与影響(給与伸び率×自国通貨)
まず、自国通貨ベースで純粋な給与の伸び率を分析しました。
こちらのグラフから見てわかるように2018年からの給与の伸び率としては日本が129%、インドが127%であるのに対し、中国が145% となっており、伸び幅がとても大きいです。つまり中国においてエンジニア競争が激しく、もっともエンジニアを重要視している、とも読み取れますね。
エンジニアの給与影響(給与伸び率×円)
次に、自国通貨から日本円に為替換算して比較してみました。
日本円視点では中国の給与伸び率は176% と高くなっています。2022年においての年収は日本が約796万円に対し、中国は約663万円と、日本から中国へオフショア開発の割安感は低下しているように感じられます。
これらから、日本から中国へのオフショア離れが起こる可能性が高いことが分かりました。
エンジニアの給与影響(給与伸び率×ドル)
さらに、自国通貨からUSドルに為替換算して比較してみました。
USドル視点では給与の伸び幅が2018年と比べ中国は131%、インドでも105%成長していることに対して、日本のみが97% と低くなっています。
また、USドル換算給与も中国は44,829ドルで日本の53,804ドルに近づいてきています。
このことから、アメリカからのオフショア開発先は、円安も相まって、日本が選択される日も近いかもしれません。
このように、円安とエンジニア給与は、国内で感じている以上の変化が起きており、エンジニアの待遇如何によっては、オフショア先の選択に大きくかかわってきていることが分かりました。
これらを踏まえてDAAE流に考察していきたいと思います。
4.DAAE流事業構想
前編・後編で見てきたように、円安の過去の歴史や円安におけるオフショアへの影響なども踏まえて、DAAEとしてどういった事業を考えられるのかを、アイデアを膨らませていきたいと思います。
今回の環境の変化を
①中国のエンジニアの割高化
②日本のエンジニアの割安化
③過去の円安における企業変遷起因
④日本国内マーケットの変化
の4つの軸から整理し、まずはブレスト的にアイデア出していきます。
① 円安による中国のエンジニアの割高化
円安の影響や物価上昇の影響から、中国のエンジニア単価が上がっているために、中国に着目して考察しました。
a) 中国にオフショアを出している日本企業の国内回帰ビジネス
b) 中国における高度エンジニアの育成ビジネス
アメリカや他国から見た時の日本のエンジニア単価が減少していっていることを逆手に取ったアプローチです。特に高度なエンジニアはどの国からも需要があるので、継続性という観点からもビジネスとして成立するのではないでしょうか。
② 円安による日本エンジニアの割安化
円安ドル高にを利用した事業を考察しました。
c) アメリカや欧州のオフショア拠点化ビジネス
ただし時差問題あり…欧州はウクライナ等が活発
d) 国内データセンター設置ビジネス
直近ではGoogleが印西市にデータセンター投資する等、取り組み活発化
e) 未経験エンジニアを安価に海外へ提供するビジネス
f) 情報システム子会社設立ビジネス
上記いくつかアイデアを出してみたところ、すでに諸外国は日本でのビジネスを展開していました。このように考えると、日本における将来性・市場は拡大していくのではないでしょうか。
③ 過去の円安における企業変遷起因
過去の円安で、企業の在り方がどのように変化し、新規事業を進めていったのかを挙げてみます。
g) グローバルカンパニーのロールインビジネス
h) コスト削減コンサルティングビジネス
日本の製造業成長の背景には、技術力は当然として、安価に製造できる環境(産業の海外移転)を作りあげたことが1つあります。
これが、IT技術の領域で、諸外国から日本へという流れも出てきています。
④国内マーケットの変化(マクロ・ミクロ)
最後に、日本国内のマーケットが上記の流れから変化している点について着目しました。
i) 留学断念した英語ネイティブ学生の日本採用
j) 移住/在住希望者へのビザ取得支援
k) 日本のクラッシックカー輸出拡大支援
l) 農家の輸出拡大
どこをペインポイントとするかによっても、見方が変わってきますが、技術や伝統を潜在的なマーケットに送り込む流れは、今後、来ると思います。
日本車における海外からの信頼感や高品質な日本の農産物などを武器に既存の市場を拡大していきたいですね。
などなど、単なる円安から様々なビジネス機会を分析してみた事例でした。
今後は、このようなテーマをさらにドリルダウンして事業企画に仕立てるプロセスもご紹介します。
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