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アジャイルの苦難の道のり|ソフトウエア開発現場歴30年の経験者ブログ

はじめに

初めまして、こんにちは。 SHIFTアジャイルコーチの谷川と申します。
私たちの所属しているアジャイルグループでは主に、お客様に正しくアジャイル、スクラムを理解していただき、お客様の業務改善を進めるコーチング業務を行っております。

私もソフトウェア開発の現場に30年以上在籍しておりますが、アジャイルがとても盛り上がり、再注目され出したのは、ほんのここ数年の話であると体感しています。 つまり、日本においてアジャイルはかなり苦難の道を歩いてきており、多くの方が「アジャイル」を誤解している状況にあることがわかっています。 今回は、そのアジャイルの歴史をふりかえりながら、

・なぜ、日本で20年間アジャイルが普及しなかったのか?
・なぜ、ここ数年で再度注目されるようになったのか?

を解説したいと思います。

ちなみに、わたしは「アジャイル」と「アジャイル開発」の用語を使い分けています。
ここに皆さんを誤解させる一因があるからだと私は考えているからです。
#ウォーターフォール開発でも、課題解決にアジャイル、スクラムのプラクティスの活用が可能であり、「アジャイルマインド」を理解した行動が企業人に求められる時代になっているからです。

執筆者プロフィール:谷川 智彦(たにかわ ともひこ)
2023年5月にSHIFTに入社。
組織アジャイル教信者。真剣に組織アジャイルでいきいき、ワクワク、幸せに働くことができ、日本を元気にできると思っている。

アジャイルのこれまでの道のり

2001年からのアジャイルのこれまでの道のりを簡単に下記に記します。
転換期は2021年のIPAの「DX白書2021」の発刊です。

アジャイル暗黒期(2001年から2010年頃)

2001年以降2010年頃に至るまでの10年間は、アジャイルの暗黒期と言われています。(*1)

「最適化」こそ、企業を成功させる最適な経営方針であると信じられていました。この最適化で解決できるビジネス課題も多く、ウォーターフォール開発全盛期で、ソフトウェア業界の業績も右肩上がりにあがっていた時代です。

「ウォーターフォール開発」の課題を解決する新しい開発手法として「アジャイル開発」が紹介され出しました。 一部でアジャイル開発へのチャレンジが開始されますが、最適化全盛のこの時代にはアジャイル開発は根付かず、 再度、ウォーターフォール開発に戻ることもありました。また、様々な現場で「ウォーターフォール開発」VS「アジャイル開発」の対立が起きていました。

アジャイル黎明期(2011年から2018年頃)

VUCAの時代が始まり、「何が正解かわからない問題」が急激に増えてきました。 ウォーターフォール開発は、お客様要求事項が明確である開発には適していましたが、何が正解かわからない問題には対応が難しくなりました。
そして、度を過ぎた最適化(標準化、分業による組織の分断)は社員の思考停止を招きました。

  • 分業が進み自分の仕事だけに集中 他の部署に関与しない

  • 役割が決められていない仕事に対応できない

  • 上司の意見が絶対(官僚主義的組織構造)

  • 上司からの指示待ち(上意下達) 

  • 怒られたくない、言ったもの負け

  • 多重下請け構造によるコアの喪失

そして、日本のIT産業に元気がなくなり、日米の格差が急激に広がります(GAFAの台頭)。
これら問題に対処するために、次第にアジャイル、スクラムが再注目されるようになりましたが、 企業文化として「最適化」が優先される環境では、なかなかアジャイルは普及しませんでした。

アジャイル再注目期(2019年から2020年)

日本のIT産業の低迷の分析が進み、「過度な最適化」 に原因があることに気付く人が増えてきました。
仕事の進め方も、「分業」から「チーム」での仕事の効果が注目され出し、 チーム作りとアジャイルの関係が注目され出します。

この辺で 「ウォーターフォール開発」VS「アジャイル開発」って何か違くない?と気付く人が増え始めます。

ウォーターフォール開発では、次の可能性を掘り当てるための 「探索」 と、 探索でわかった結果から分かったことで次の判断と行動を変える 「適応」 が難しく、 この「探索」と「適用」のための組織能力として、仮説検証とアジャイルが 注目されるようになりました。
課題解決にアジャイル、スクラムのプラクティス活用が有効であることに気付き出し(朝会、タスクボード、ふりかえり会が徐々に普及)、PJ運営にScrumに取り組むチームが増え、マネジメント層に広がり始めたことにより、 経営陣 がアジャイルに関心を持つようになります。

組織アジャイル活性期(2021年から現在)

IPAが発刊した 「DX白書2021」 が大きな転換点となりました。(*2)
日米の比較により、下記に大きな差があることがこの文書で分析報告されました。(*3)(*4)

  • アジャイル開発の適用率

  • 企業経営にアジャイルの考え方を取り入れた会社の数

そこから、企業経営とアジャイルの研究(組織アジャイル)が進み、 数多くの現場で取り入れられるようになりました。そして、2021年10月には、ウォーターフォール型PJ遂行の世界標準知識である PMBOKにも、とうとうアジャイルの要素が取り入れられました(PMBOK第七版の出版)。

2022年になると企業経営や組織革新のためにアジャイルの考え方を取り入れた 「組織アジャイル」 を解説する多数の書籍が出版されるようになり、 IPAもアジャイルと経営、組織を幸せにする組織アジャイルを紹介するようになり、 さらに組織アジャイルのコミュニティ活動 も盛んになり、今日に至っています。

失われた日本のIT産業の組織やプロダクトの 「芯(コア)」 を見つけ直す動きとして、「内製化」 と 内製化チームを自走する組織 に変えるための 「組織アジャイル」 導入が増えている状況です。

●自走する組織

  • 世の中の動きを機敏に察知し、お客様要望にすばやく対応できる

  • 状況を的確に判断でき、短いサイクルで目標を見直せる

  • 気付いた課題、アイデアがどんどん集まる

  • カイゼンサイクルが自然と回るため生産性が非常に高い

  • チームの心理的安全性が確保されている

  • チームメンバーがいきいき、ワクワク働いている

まとめ

私もIT産業に30年以上在籍して、数多くのアジャイルの失敗事例を見てきました。そして、現場にはアジャイルに関する大きな誤解が蔓延していることに気がつきました。

  • アジャイルを今でもウォーターフォール開発に対する開発フレームワークだと思っている
    アジャイルは、顧客要望を重視し、価値をお客様にスピーディに届ける「考え方」
    スクラムは、価値を届け、問題を明るみに出すためのフレームワーク

  • 開発以外の作業にも、アジャイル・スクラムが適用可能であることを知らない

  • アジャイルの普及には、会社の文化と密接な関係がある
    組織文化として「最適化」が最優先され、官僚主義的組織構造を持ち、上の人の意見が絶対的な環境下ではアジャイルは育たない

そして、2021年頃からアジャイル関連の書籍を20冊以上読みまくりました。
#皆さんに是非読んでもらいたい書籍もあるので、この情報も別の会で紹介いたします。

また、アジャイル系のオンラインイベント、コミュニティにも多数参加しました。ここまでやってようやくアジャイルの本質、組織アジャイル を理解することができました。

そして、数多くのこの 「組織アジャイル」 にチャレンジしている方々とお会いしましたが、 そこで共通的に言えることが、皆さん本当に楽しそうに働いている ということでした。

私は、この「組織アジャイル」に非常に大きな可能性を感じており、 IPAが言っているように本当にお客様を幸せにできる と信じています。
#これを推進する自分自身、自分たちチームも幸せにできます。

たぶん、IT業界の経験豊富の多くの方は、2018年頃までの「アジャイル開発」の知識で 止まっている方が非常に多いのではないかと思います。

今では、「アジャイルマインド」の理解は企業人としての必須スキルとまで言われ、 企業経営改革、組織文化改革、従業員満足度(エンゲージメント)、社員の幸福度向上にアジャイルが有効で あると言われています。
「DX推進」 にもアジャイルマインドの理解は必須です。

まずは、今回の記事で「組織アジャイル」に興味を持っていただけたと思います。

次回は、この 「組織アジャイル」とは何か?企業のWell being経営、人的資本経営とアジャイル について詳しく解説したいと思います。

◆参考文献
(*1)(*2)市谷 聡啓 「組織を芯からアジャイルにする」 2022年7月 P.69, P.75
(*3)(*4)IPA 「DX白書2021」2021年12月 P.6, P.7

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